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岡山地方裁判所 平成元年(ワ)199号 判決

原告

古宮隆行

被告

株式会社山手モータース

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して原告に対し、金一四〇八万二一八円及び内金一二七八万二一八円につき昭和六一年一月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は連帯して原告に対し、金二二一九万八九七五円及び内金二〇一九万八九七五円につき昭和六一年一月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和六一年一月二七日午後九時五〇分ころ

(二) 場所 神戸市中央区相生町二丁目三番九号先交差点

(三) 態様 原告が自動二輪車(以下「原告車」という。)を運転して交差点を青信号に従い東から西に直進しようとしたところ、折から対向直進してきた被告泉運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が同交差点をいきなり時速約二四キロメートルの速度で右折南進したため、原告が急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車の左側面に衝突することを余儀なくされた。本件事故により、原告は両大腿骨骨折、左第四中手骨骨折、両膝及び両大腿挫創、脳挫傷の傷害を受けた。

2  責任

被告泉は、東から本件交差点に青信号に従つて進入し、右折南進しようとしたが、その際、対向直進車両の存在を確認して安全に右折すべき注意義務があるのに、これを怠り、対向直進車両の有無を十分確かめることなく、漫然と右折南進したため、折から対向直進してきた原告車を自車左側面に衝突させたものであり、民法七〇九条に基づく損害賠償義務がある。また、被告会社は、多数の営業用タクシーを保有して客の輸送等を業として営む者であり、被告泉は被告会社に雇用されて右営業用タクシーの運転の業務に従事する者であるところ、本件事故は、被告泉が右タクシー運転の業務に従事中に惹起したものである。したがつて、被告会社は本件事故に関し、自己のために自動車を運行の用に供していたものであるから、自賠法三条、民法七一五条(物損)に基づく損害賠償義務がある。

3  損害

(一) 治療費(原告立替分) 一万二三二〇円

原告は、前記傷害により、昭和六一年一月二七日から同年五月二四日まで兵庫県立西宮病院に入院し、同月二五日から同年九月一三日まで川崎医科大学附属病院に入院し、昭和六二年三月九日から同年三月二三日まで骨折部の抜釘のために入院した(入院期間合計二四五日)。さらに、右入院以外に合計一一日間の通院を余儀なくされ、昭和六三年一月六日に症状固定したが、その間に要した治療費のうち、原告の立替分は、一万二三二〇円である。

(二) 付添費 六一万円

原告は、生死をさ迷う重傷を負つたため、昭和六一年二月六日から同年五月二四日まで(一〇八日間)、同月三〇日から同年六月五日まで(七日間)、同年八月七日から同月一三日まで(七日間)それぞれ入院中の原告に付添看護をする必要があり、原告の身内の者が交替で付添看護したがその費用は、一日あたり五〇〇〇円として六一万円(一二二日分)となる。

(三) 入院雑費 二四万五〇〇〇円

原告の入院期間二四五日の入院雑費は、一日一〇〇〇円として二四万五〇〇〇円となる。

(四) 近親者の交通費 四二万三〇〇〇円

原告の身内の者が、原告の付添、見舞のために要した交通費は、合計四二万三〇〇〇円である。

(五) 医師等への謝礼 一〇万円

医師等への謝礼として一〇万円を支払つた。

(六) 大学留年による授業料負担 六九万四〇〇〇円

原告は、本件事故によつて負傷したため、在学していた甲南大学の卒業が一年六か月延びた。この留年に伴う授業料の負担は、六九万四〇〇〇円である。

(七) 逸失利益 合計一四二九万五九五円

(1) 大学留年による逸失利益 二四七万六八〇〇円

原告は、甲南大学を昭和六三年九月二三日に卒業したが、右卒業以前の同年四月一日に実父の口利きにより、短大卒業の資格で岡山市内の株式会社トヨタコンピユーターサービスに就職した。原告は、本来であれば、昭和六二年三月に卒業し、同年四月から然るべき仕事に就職していたはずなのに、現実には就職が一年間遅れたわけであり、これによつて原告が受けた損害は、二三歳男子の一か月平均賃金二〇万六四〇〇円の一二か月分にあたる二四七万六八〇〇円となる。

(2) 後遺障害による逸失利益 一一八一万三七九五円

原告は、昭和六三年一月六日、左足短縮両膝運動障害等の後遺障害を残し、症状固定した。この後遺障害によつて、原告は、二〇パーセント(一一級)の労働能力を喪失した。そうすると、原告の就労可能年数四三年間(新ホフマン係数二二・六一一)に二四歳の男子平均給与月額二一万七七〇〇円の収入を得ることができたはずであるから、原告の後遺障害による逸失利益は、一一八一万三七九五円(円未満切捨て)となる。

(八) 入院慰謝料 三〇〇万円

原告は、本件事故により、生死が危ぶまれる重傷を負い、前記のとおり、二四五日間の入院を余儀なくされたが、その慰謝料としては、三〇〇万円が相当である。

(九) 留年等による慰謝料 一〇〇万円

原告は本件事故により、一年六か月にわたる留年生活を余儀なくされたが、これによつて、肩身が狭く友達も少ない学生生活を強いられ、希望に添う就職の機会も失つた。この精神的苦痛を慰謝するには、一〇〇万円が相当である。

(一〇) 後遺障害による慰謝料 二八〇万円

前記後遺障害による慰謝料としては二八〇万円が相当である。

(一一) 物損 三〇万円

原告車は、本件事故により大破して屑鉄となり、着衣等も使用不能になつたが、この損害は、三〇万円である。

(一二) 弁護士費用 二〇〇万円

原告は、本件事故の損害賠償請求について原告代理人に委任したが、その弁護士費用は二〇〇万円が相当である。

4  損害の填補

原告は、自賠責保険から合計三二七万五九四〇円を受領した。

5  よつて、原告は被告らに対し、連帯して二二一九万八九七五円及び内金二〇一九万八九七五円につき本件事故日である昭和六一年一月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否及び主張

1  請求原因に対する被告らの認否

(一) 請求原因1の(一)、(二)、4の各事実は認める。

(二) 同1の(三)の事実のうち、原告が本件事故により傷害を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同2の事実のうち、被告会社が本件事故に関し、自己のために自動車を運行の用に供していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四) 同3の(一)ないし(二)の各事実は知らない。

(五) 同3の(一二)の事実のうち、原告が本件事故の損害賠償請求について原告代理人に委任したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(六) 同5は争う。

2  被告らの主張

原告が西進して来た東西に伸びる道路は、原告の進行方向から見て右に大きく湾曲し、本件交差点に至つている。そして、本件交差点付近の中央分離帯には植え込みと多数のポールがあつて視界を遮つているため、本件交差点は、原告、被告泉の双方からの見通しが極めて悪い。被告泉としては、本件交差点の中央から、さらに西行車線の中央部分にまで進入しなければ、東方の見通しは困難である。このため、被告泉と同様に、東進して本件交差点を右折し、神戸駅に入ろうとする車両は、すべて徐行して右折を開始し、左方(東方)五〇ないし六〇メートルが見通せる地点に来ると、西進して来る車両が制限速度(時速五〇キロメートル)をせいぜい一〇キロメートル超過する時速六〇キロメートル程度である限り安全に通過できるので、運転者としては、前方の交差点南詰め横断歩道上の歩行者に注意して進行すれば、注意義務は尽くされたというべきである。

ところが、原告は、通常の予測をはるかに越える時速一〇〇キロメートル以上の高速で西進して来たため、本件事故が発生したものである。この点は、元警察官の目撃証人があるほか、原告車は、タクシーである被告車のセンターピラー(車両中央部のドアー間の柱)に衝突しているが、タクシーは耐久性に優れたセンターピラーを有する車両を採用しており、この強靱なセンターピラーが曲つて被告車が全損になり廃車していることから、原告車が高速で衝突したことは明らかである。

したがつて、被告泉には過失はなく、被告らには責任がない。

三  被告らの主張に対する原告の反論

1  自動車が交差点で右折するときは、交差点の中心の直近の内側を徐行しなければならず(道路交通法三四条二項)、交差点を直進する車両の進行を妨害してはならない(同法三七条)。ところが、被告泉は、本件交差点では時速約四四キロメートルから時速約二五キロメートルに減速しただけで徐行を怠り、直進する原告車と衝突するまでブレーキをかける等の衝突を回避する措置を全く取つていないのであつて、右折車の右二つの義務に違反している。

2  被告らは、自己が無過失である理由として、本件交差点が互いに見通しが悪く、また、原告が時速一〇〇キロメートルを越える速度で走行していたことを挙げている。しかし、見通しが悪いのであれば、余計に徐行する必要があるし、原告の滑走開始前の速度は時速約八〇キロメートルである。原告は、本件事故当時、片側五車線の三番目の直進車線を通行しており、その延長線上の交差点内で被告泉に進路を妨害され衝突したものである。見通しが悪いのであれば、直進車線に進入する手前で一時停止、又は徐行すべきであるにもかかわらず、被告泉は、全くこれを怠り、しかも、対向車線の走行車両の有無について確認をしていないのであつて、被告泉の過失は重大である。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第五ないし第一四号証、乙第一号証の二ないし一九(但し、乙第一号証の八、一七については後記信用しない部分を除く。)、平成元年六月一五日に撮影された本件事故現場付近の写真であることに争いのない乙第二号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、本件事故現場は、ほぼ東西に伸びる片側五車線(両側一〇車線)の中央分離帯のある道路と、ほぼ南北に伸びる幅員約一七メートルの道路とが交差した信号機の設置された交差点であること、東西道路の本件事故現場付近における制限速度は時速五〇キロメートルであること、本件事故当時、原告は、原告車(自動二輪車)を運転し、後部座席に友人を同乗させて時速約八〇キロメートルで西進して本件交差点に差しかかり、そのままの速度で本件交差点を青信号に従つて直進しようとしたこと、被告泉は、普通乗用自動車(タクシー)を運転して、東西道路を時速約四〇キロメートルで東進して本件交差点に差しかかり、時速約二五キロメートルに減速して本件交差点を右折南進しようとしたところ、東西道路の西行き第三車線を直進走行して来た原告車の前部が被告車の左側中央部分と衝突したこと、右衝突の結果、原告車の前部が大破し、被告車の左側部のドア部分が大きく凹損したこと、東西道路は、原告車の進行方向から見て本件交差点東詰の手前付近から右方向にやや屈曲しており、中央分離帯に植え込みがあるため、原告車の進行方向からすると、本件交差点東詰の手前から見て同交差点中央部分の見通しがやや悪く、また、被告車と同様に東進して本件交差点を右折する場合、同交差点の東詰西行き車線の見通しがやや悪いことの各事実が認められ、乙第一号証の八、一七のうち右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  責任

前記一で認定したところによれば、東西道路は、本件交差点付近でやや屈曲しており、中央分離帯に植え込みがあることから、本件交差点を直進する原告車と右折する被告車との間では、互いにやや見通しが悪く、このため、原告車、被告車ともに同交差点を通過する他車の動きに十分注意すべきであつたうえ、被告車は、本件事故当時、本件交差点を右折していたのであるから、徐行し(道路交通法三四条二項)、直進車の進行を妨害してはならない(同法三七条)のであり、しかも、東西道路は、極めて幅員の広いほぼ直線の道路であつたことから、本件交差点を東西方向に直進する車両は、かなりの速度で進行することが十分予測される道路状況であることをも考慮すると、本件事故当時、原告車にかなりの速度超過が認められるものの、被告泉にも直進車の有無を十分確かめることなく本件交差点を右折して本件事故を発生させた点で過失があり、民法七〇九条の賠償義務があるというべきである。

さらに、被告会社が本件事故に関し、自己のために自動車を運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。そうすると、被告会社には自賠法三条及び民法七一五条による賠償義務がある。

三  損害

1  治療費(原告立替分) 一万二三二〇円

前記甲第一二号証によれば、原告は、本件事故による傷害の治療費等として川崎医科大学附属川崎病院(以下「川崎医大」という。)に一万二三二〇円を支払つていることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、治療費(原告立替分)として一万二三二〇円が相当である。

2  付添費 四八万八〇〇〇円

前記甲第五ないし第一〇号証、成立に争いのない甲第一七、第一八号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により、昭和六一年一月二七日から同年五月二四日まで兵庫県立西宮病院に入院し、同月二五日から同年九月一三日まで及び昭和六二年三月九日から同月二三日まで川崎医大に入院し、その間の昭和六一年二月六日から同年五月二四日まで(一〇八日間)、同月三〇日から同年六月五日まで(七日間)、同年八月七日から同月一三日まで(七日間)それぞれ付添看護を要し、その間、原告の家族が付添看護をしたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定事実によれば、付添費として四八万八〇〇〇円(一日あたり四〇〇〇円の一二二日分)が相当である。

3  入院雑費 二四万五〇〇〇円

前記甲第五ないし第一〇号証によれば、原告は、本件事故により、昭和六一年一月二七日から同年九月一三日まで及び昭和六二年三月九日から同月二三日まで(合計二四五日間)入院したことが認められ、入院雑費としては二四万五〇〇〇円(一日あたり一〇〇〇円)が相当である。

4  近親者の交通費 九万三四二九円

近親者の交通費については、付添看護を要した日数、人数の範囲内で本件事故と相当因果関係のある損害と認められるべきところ、原告については、前記2(付添費)で認定した期間について付添看護一人を要し、成立に争いのない甲第一九号証、証人古宮武司の証言によれば、右期間中の昭和六一年二月六日から同年五月二四日までの間に、原告の近親者が原告の付添、見舞のための交通費として合計二九万三〇三〇円を支出したことが認められるが、右に述べた近親者の交通費が認められる趣旨からすると、昭和六一年二月六日から同年五月二四日までの間における近親者の交通費としては、右金額の三割にあたる八万七九〇九円が相当である。また、付添看護を要した昭和六一年五月三〇日から同年六月五日まで及び同年八月七日から同月一三日まで(合計一四日間)のうち、前記甲第一九号証によれば、同年五月三〇日から同年六月五日まで、同年八月七日から同月一〇日まで、同月一二日(合計一二日間)について、バス代として一日、一人あたり四六〇円を要したことが認められるので、その間の近親者の交通費としては、五五二〇円が相当である。そうすると、近親者の交通費としては、合計九万三四二九円となる。

5  医師等への謝礼 一〇万円

前記甲第一八号証、証人古宮武司の証言によれば、原告は、治療をしてくれた医師等への謝礼として一〇万円を支払つたことが認められ、右一〇万円を本件事故によつて生じた損害とみるべきである。

6  大学留年による授業料負担 六九万四〇〇〇円

成立に争いのない甲第一ないし第四号証、証人古宮武司の証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時、甲南大学経済学部の三回生であり、昭和六二年三月に同大学を卒業する予定であつたが、本件事故による治療のため、卒業が昭和六三年九月まで遅れたこと、原告は、昭和六二年前、後期分、昭和六三年前期分の各授業料等として合計六九万四〇〇〇円を支払つたことが認められ、右支払額を本件事故によつて生じた損害とみるべきである。

7  逸失利益 合計一四二九万三三四円

(一)  大学留年による逸失利益 二四七万六八〇〇円

証人古宮武司の証言、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故がなければ、昭和六二年三月に大学を卒業して就職する予定であつたが、本件事故による治療のため、同年四月に就職できなかつたこと、その後、原告は、自己の父が幹部社員として勤務している会社の子会社に父の縁故で昭和六三年四月に就職し、以後、同会社に勤務していること、原告が昭和六二年四月に就職できたとすれば、同月から昭和六三年三月までの間に、一か月二〇万六四〇〇円の収入を得る高度の蓋然性のあつたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定事実によれば、原告の大学留年による逸失利益としては、二四七万六八〇〇円が相当である。

(二)  後遺障害による逸失利益 一一八一万三五三四円

前記甲第五ないし第一二、第一六号証、証人古宮武司の証言、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により両大腿骨骨折、左第四中手骨骨折、両膝及び両大腿挫創の傷害を受け、昭和六一年二月五日に両大腿骨接合術を施行し、その後、左大腿骨の変形治癒を認めたため、同年五月九日に抜釘術、骨接合術を施行し、同月二四日には原告の実家に近い川崎医大に転院したこと、その後、同月三〇日に左大腿骨癒合不全に対して抜釘後に再固定をし、同年八月七日には右大腿骨骨折後の異常化骨があつたため、抜釘後に骨棘切除を行い、以後、骨癒合の観察とリハビリテーシヨンを続け、経過が順調であつたことから、同年九月一三日に退院したこと、そして、昭和六二年三月八日まで川崎医大に通院(実日数八日)したが、骨癒合は良好であり、抜釘のため同月九日に川崎医大に再入院し、同月一〇日に抜釘し、同月二三日に退院したが、その後の経過は順調であり、両大腿骨骨折は過剰仮骨で骨癒合していること、現在、原告には跛行があり、右大腿部痛があつて力が入りにくく、階段を昇りにくいほか、左膝関節痛があつて、しやがむと痛みがあるため和式便所は使用できないこと、また、原告は、本件事故のため、遷延性意識障害が発現し、知能指数は一〇八であるものの、記憶力、判断力、計算力、発語能力が低下しており、原告の勤務先がコンピユーター事務に関するものであることから、仕事上も支障があること、原告の右各症状は、今後も持続する可能性が強く、医師は、原告の症状固定日を昭和六三年一月六日と診断していること、原告は、昭和三九年二月五日生れの男子であり、昭和六一年当時、二四歳の男子には一か月二一万七七〇〇円の収入(年収二六一万二四〇〇円)を得る高度の蓋然性があつたことの各事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告は、症状固定時以後の昭和六三年四月から就労可能年数である四三年間(新ホフマン係数二二・六一〇五)にわたつて二〇パーセントの労働能力を喪失したと解されるから、後遺障害による逸失利益は一一八一万三五三四円(円未満切捨て)となる。

8  入院慰謝料 一六〇万円

前記一(交通事故の発生)、二(責任)、三2(付添費)、三7(二)(後遺障害による逸失利益)で認定した原告の入院期間、治療状況、本件事故の態様、その他本件における一切の事情を総合すれば、一六〇万円が相当である。

9  留年等による慰謝料 五〇万円

前記一(交通事故の発生)、二(責任)、三6(大学留年による授業料負担)で認定した事実、その他本件における一切の事情を総合すれば、五〇万円が相当である。

10  後遺障害による慰謝料 二六〇万円

前記一(交通事故の発生)、二(責任)、三7(二)(後遺障害による逸失利益)で認定した事実、その他本件における一切の事情を総合すれば、二六〇万円が相当である。

11  物損 三〇万円

前記甲第一三号証、乙第一号証の四、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告車は本件事故により大破して使用不能になつたこと、原告車は、原告が昭和六〇年七月六日に知人から四〇万円で買受けた比較的新しい自動二輪車であることの各事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、原告が本件事故により受けた物損は、三〇万円を下らないというべきである。

12  弁護士費用 一三〇万円

原告が本件事故の損害賠償請求について原告代理人に委任したことは当事者間に争いがなく、原告の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては一三〇万円が相当である。

四  過失相殺

前記一(交通事故の発生)、二(責任)で認定した本件事故当時の原告車と被告車の各進路、各進行速度、本件事故現場付近の道路状況、信号の表示、本件事故現場付近の制限速度、本件事故発生時刻を総合すれば、前記三1ないし7、11の各損害(合計一六二二万三〇八三円)から過失相殺として三割を減額するのが相当である。そうすると、過失相殺後の右各損害は一一三五万六一五八円(円未満切捨て)となる。

五  損害の填補

請求原因4(損害の填補)の事実は当事者間に争いがない。

六  よつて、原告の本訴請求は、主文記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安原清蔵)

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